◇ 永遠の一枚　◇

パリ・ロダン美術館／彫刻 「大聖堂」

　

　




　この世で最も愛する彫刻は何か、と問われたら、一瞬の迷いもなくこれを挙げます。
　パリ７区・ロダン美術館にある、『大聖堂』と名づけられた作品です。


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　地下鉄ヴァレンヌ駅を出て南へすぐ、鉄柵に囲まれた美しい英国式庭園があり、ロダンが晩年を過ごした瀟洒な館が建っています。現在は彼の作品を集めた美術館となっている、その建物を入ってすぐ右手に、この彫刻が置かれています。
　初めて見たのはごく幼い頃。けれどその夜はむっつり黙ってご飯も食べず、しまいには熱を出してしまった…と今でも母が笑うくらい、どうしようもない衝撃を受けたのを覚えています。

　一対の男女の手。それだけで構成されたシンプルな彫刻は、初めての触れ合いに震える心のようでもあり、互いに爪を立てて傷つけ合った後に訪れる静謐のようでもあり、この写真を撮った日はほぼ半日、他には何も見ずにこの彫刻の前で過ごしました。
　別々の存在が向かい合うという神秘、そこに祈りを示唆する名前が与えられているという事実に、この作品を見る都度、鳥肌の立つような思いを味わいます。

　今も慣れない文章で小説を書いているとき、無意識の内に、常にこの彫刻のイメージが心のどこかにあるような気がします。
　冒頭で「最も愛する彫刻は何か」と記しましたが、「文章で何を表したいのか」と問われれば、身のほど知らずは痛いほど承知の上で、「この彫刻にある何か」という答えしか思い浮かびません。


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　以前にも、最も特別な一枚としてお届けしたこの写真。あれから（幸いなことに順調なまま）年月も経ち、「雑記では読んだけど、写真そのものは見たことがないの」とお聞きすることも多くなり、この機会に再びお目にかけたいと思いました。
　今回、『自由、夜』の改訂版を製作するにあたって、カバーのデザインをいくつもあれこれ作ってみたのですが、どれもしっくりと来ないまま、結構長い間頭を悩ませていたのですが、そうだ！これがあった…！！と思い当たった瞬間、目の前がぱあっと開けたような気持ちになったことを今でもよく覚えています。（そこからはもう、この一枚をお目にかけたい一心で本作りのすべての過程をこなした、と申し上げても過言ではありません）

　最初の一冊目の改訂版に、生まれて初めての衝撃を受けた彫刻の写真を使うことができたというのも、何かの縁のような気がします。お楽しみ頂ければ、とてもとても幸せです。