祝賀の式典を終え、ようやく控えの間に引き取ると、主は嬉しそうに履を脱ぎ捨てた。

返す手で霞披を放り投げ、綺麗に結い上げた髪から歩揺を抜き取る。ゆるくねじった髪がこぼれ落ちて、顔の周りを覆った。

「……これで少しは楽になった」

そう呟く主を、彼は呆れた面持ちで眺める。――本当に、この方はいつまでたっても、装うのが苦手でおいでだと。

そんな彼にはかまわず佳氈の上に座り込むと、陽子は勢いよく襦裙をたくし上げて足をさすった。景麒は思わず目を覆う。

「あれだけ立ちっぱなしだと、足が疲れるね」

振り返った陽子はにっこり笑い、自分の後ろの佳氈をぽんぽんと叩いて催促した。

「お疲れさま。一緒に休もう」

「……じきに女官が参りましょう」

「大丈夫だよ。脱ぐときだけは、手伝いがいらないほど素早いって彼女たちも知ってる」

ため息をつきながらも言われるままに、彼は主の後ろに腰を降ろす。その膝の間に身体をすべり込ませて背中を預けると、彼女は小さく息を吐いて力を抜いた。

その身体に軽く手を添えると、いつもは簡素な帯紐だけしかない場所は、華やかな珠帯と玉佩で覆われていた。意外にしっかりとした帯芯の感触に、なるほど……と彼は妙に納得する。

――女性の美しい装いには、衆目を惹きつけるのと同時に難攻不落を暗示する、二重の意味が込められているのだと。

たとえば隣国の王なら、それをどう解きほぐすかがこちらの腕の見せどころだ、とでも言ってのけただろうが、あいにく彼は麒麟だった。

すぐ傍にある赤い髪は、いつものようには腕の中に流れ落ちず、髪油で梳いて花細で飾られていた。

身動きするたびにさらさらと鳴る耳墜も、普段の彼女にはないもので、景麒はいささか困惑する。

主の華やかな装いを目にすることには純粋な喜びがあったが、どちらがより好ましいかと訊かれると、いつもの飾り気のない美しさの方が僅差でまさるような気がした。

これも重いのだろうと、その首にかかった連珠の留め金を外してやると、陽子は小さく笑った。――ありがとう。

「……こうしているときには、別にどんな格好をしていてもかまわないんだ」

肩越しにのばされた手が頬に触れ、聞き慣れた声が囁くのを彼は聞く。

――ここがわたしの玉座なんだから。