君よ知るや　南の国

樹々は実り　花は咲ける

わが懐かしの故郷　望み満てる国

君よ知るや南の国

―恋文・番外篇―

【金波宮−雨潦宮： 盛夏】

――主上、お変わりありませんか。廉麟です。

慶に着いてから、もう五日近く経ちました。お集まりになったのは雁と範の主従方、それに国許の慶のお二方と、漣からのわたしです。これだけの数の王と麒麟が揃うなんて、想像したこともありませんでした。

登極して間もない景王君にもお逢いしました。泰麒と同じ胎果でいらっしゃるの。まるで早生の紅嘉祥のような、見事な赤い髪をお持ちです。赤子、というお名前は、きっとそこから来ているのね。とても誠実なお人柄で、凛々しい方。ちょうど奏の公主と同じくらいのお年かしら。

……もちろん外見が、ですけれどね。

呉剛環蛇をお送り下さって、お礼を申し上げます。頂いたその日から、さっそく他の台輔方と一緒に蓬莱へ渡って泰麒の行方を探し始めました。戴の将軍……李斎、と仰るのですけれど、その間ずっと身動きもせずに、同じ書房でわたしたちが戻るのを待っておいでです。……そうせずにはいられないのね。

主上は元気でいらっしゃるかしらと、慶に来てから一日に何度も考えます。こちらでの滞在は思ったより長くなりそうだけれど、辛抱なさってね。

朝議にはそれなりの格好でお出ましになること。この間みたいに、後宮の園林に官を呼んで稟議をなさったりしてはだめです。

本当に、いつまでたっても目が離せない方なんですから。

◆　　　　　　　　　　　　　　　◆　　　　　　　　　　　　　　　◆

――鸞をありがとう。台輔の元気な声が聞けて何よりです。

毎日大変だろうと思うけれど、こちらのことは心配しなくても大丈夫。朝議にはきちんと泥を落としてから出かけているし、畑の作物も良く育っています。

この間、奏から頂いた新しい苗も、ここの土にきちんと根付いているみたいで一安心です。これで収穫が良ければ、来年には希望する州や里に分けてあげたいと思っています。

でも、食事を一緒にする相手がいないのは、やっぱり味気ないね。

台輔は忙しくてもちゃんと食べているだろうか。昔に比べて随分ましになったけれど、今でも台輔は食が細い方だと俺は思います。

俺の知っている農家の女の人は、みんなよく食べていたからね。

……ああ。台輔と比べては失礼だったかな。謝ります。

こちらは毎日暑いけれど、台輔の好きな香蕉や甘蔗もしっかりと育っています。安心して下さい。

慶にはどういう性質の土壌があって、今頃はどんな作物が育っているんだろう。急に気候や食べ物が変わって、台輔は元気でいるだろうか。……毎日そんなことを考えながら、仕事とお役目に励んでいます。

くれぐれも頑張り過ぎないように。身体を充分にいたわって下さい。

【金波宮−雨潦宮： 晩夏】

――こんなに頻繁に鸞を飛ばして、主上が梧桐宮から文句を言われていらっしゃるのではないかと、少し心配です。

先日は景台輔から、失礼ながら漣では何か火急の懸案がおありなのか、と真顔で聞かれてしまいました。以前誼のあった泰麒を心底案じていらして、毎日ご公務でお忙しい合間を縫って、蓬莱に渡って下さるの。けれど景王君の前では、疲れた様子を見せまいと気遣っておいでなのが、よく分かります。

食事どきには、同じ清香殿においでの氾王君と氾台輔がたびたびお招き下さるので、心配なさらないでね。美術工芸で名高いお国柄だけあって、とても優雅で洗練された方々です。延王君とも心安いご関係のようでした。

ああ……でも、実際に範の方々にお逢いになったら、主上は少しびっくりなさるかも知れないわね。少しだけ、風流なご趣味をお持ちでいらっしゃるから。

最近少し……ほんの少しだけ、疲れたような気がします。朝、最初に呉剛環蛇を潜る前に、一瞬だけ、今日も泰麒は見つからないのではないかと思うことがあるんです。

でも、心配なさらなくても大丈夫。周りの方々もこうして気を遣って下さるし、鸞たちも少し休ませてあげなくては。

主上も庭院の畑に気を取られるあまり、そのままの格好でお客さまにお逢いになったりなさらないようにね。

またお便りします。お返事は気になさらないで。

【後】

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