華やかなトプカピ宮殿の裏手に、ひっそりと佇むイスタンブール考古学博物館。街の喧騒が嘘のように静かな中庭には、古い彫刻の破片が点在し、その間に置かれたベンチで猫たちが寝そべっていました。
アレキサンダー大王の棺（実は彼のものではないそうなのですが）などの名高い作品に混じって、何故かひときわ心を惹かれたのが、この名もない若い婦人の墓碑でした。
おそらく埋葬された本人であろう若い女性が握手を交わしているのは、この世に残していく親しい人たちに「さようなら、また逢いましょう」と告げているのか、それともあちらの世界から来た迎えの手を取って、今まさに立ち上がろうとしているのか。
静謐な死の気配の中に、悲しみと入り混じった温かさや懐かしさが漂っているように感じられて、随分と長い間この石碑を眺めていました。
建物の外に出ると、高かった日がもう傾き始めていて、しばらくベンチに座って猫と遊んだ旅の始まりでした。