先週はうっかり風邪など引きこんで、御前拝謁を怠る無礼をかましてしまいました。
　ちょっと涼しくなったのに浮かれまくり、クールシャワージェルを塗りたくって扇風機の前で変質者ごっこを楽しみ、意気揚々と裸族ライフを続行すると、いかな阿呆でも風邪を引くんじゃよ。

　という生ける見本より、謹んでご挨拶申し上げる次第でございます。
　……てへ（照）。


　今宵もご機嫌麗しゅう、愛するマドモアゼル方。
　本日はまず、連載中の『百年譜』・第七章をお届けいたします。
　連載開始直後は、「…これ…いったいどんな話になるっていうの…？」と芥瑚方が胸を痛めて下さったすっとんきょうなブツも、文字通りすっとんきょうな展開を果敢にくり返し、ようやく見知った土地へと帰って参りました（笑）。
　「常世版・世界の車窓から」の何番目かの目的地。今回も大変に長うはございますが（ほんとにな…）、ささやかながらお楽しみ頂けると、とっても幸せです。
　

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　さて、愛するマドモアゼル方。
　飲食という行為をこよなく愛し、一日５食をモットーとする大食い麒麟、わさびとからし以外には口に余るものがない！と申し上げても過言ではないのですが、ひとかたならぬ憧憬を寄せつつも、なかなか賞味する機会に恵まれないという幻の一皿がございます。
　……ストレートに申し上げましょう。
　お子さまランチでございます。


　お子さまランチ。……これまで人類が生み出したあらゆるメニューの中で、これほど前衛的かつ魅惑的なブツがあるでしょうか。
　そこにはまず、複数のメインディッシュがてんこ盛りです。通常は独立して供されるべきハンバーグとコロッケが仲良く肩を並べ、時にはウインナーや唐揚げでさらなる主菜強化が図られています。そして炭水化物を担当するのはスパゲティ・ミートソース、あるいはナポリタン、心ある皿にはピラフまで乗っていたりする。
　「メインディッシュは一皿一品」という固定概念を打ち破り、好きなものを好きなだけ並べて食べたい！という原始的な欲求を満たすこのコンセプト。まさにタブーを恐れぬ天晴れな心意気と申し上げるべきでありましょう。
　そしてここにはデザートもある。プレートに刻まれた浅い溝、あるいはひとひらのサニーレタスで隔てられたそこにあるのは、ほろ苦い風味を帯びたカスタードプリンである確率が高い。というのも、がっつりと甘いものは持て余してしまう左党にとって、この上なく好感を誘う佇まいです。
　ワンプレートの上に複数のメインディッシュ、炭水化物、そしてデザートまで包括する宇宙的完結。
　かくて人はここに、ひとつの宇宙が生み出す混沌と調和を見出し、それを賞味することによって万華鏡のごとく多角的な満足の境地に至る……という訳なのでございます。

　さかのぼること数週間前、とある平日の昼下がり。
　初めてお逢いする仕事関係の方々から、ランチでもご一緒しながら打ち合わせをしましょう、というお誘いがあり、麒麟はほいほい出かけて参りました。
　指定の場所はホテル・オークラのテラス・レストラン。なごやかに挨拶を交わして席につき、まずはメニューを広げて注文を、となったとき、麒麟の目はとある文字に釘付けになりました。
　……メニューの右下に燦然と輝く、「お子さまプレート」の文字。

　こ…これはまさしく憧れのお子さまランチ！　説明書きにもそう書いてある！
　しかもここは老舗ホテルのレストラン、かような場所で供されるお子さまランチとなれば、それはお子さまランチ界におけるエベレストといっても過言ではない！
　嗚呼、しかし今はビジネス・ミーティングの場。しかも初対面の方々の前で、そんな注文をするのはいくらなんでも…！！

　と数秒間、胸中にハリケーンのような葛藤を味わった挙句、
　「では皆さんと同じコースで、メインはチキンを……」
　と弱々しく微笑んでメニューを閉じたあのときほど、敗北感に打ちひしがれたことはありません。

　何がチキンだ意気地なし！　チキンなのはおまえじゃないか！！

　と帰り着いた蓬莱オフィスの片隅で、自責と後悔の涙に暮れた午後。
　その夜は、お子さまランチの夢を見ました。
　悲しい実話です。

　

　蓬莱オフィスでレポートを書き上げると、それを海の向こうにある本部に送るのですが、そのやり取りにちょっとした雑談や時事ネタが加わったりして、「こちらは桜が見頃だよ」とか、「ＢＢＱシーズン到来！」といった会話が交わされることもしばしば。
　……しかしながら、今週末の会話はどれも女子サッカー＠ドイツでの決勝戦でもちきりです。
　お互いの国がめでたくファイナルで対戦するという慶事でもあり、みんな表向きはなごやかに、
　　「決勝まで来たんだもん、どっちが勝っても嬉しいよねー！」
　　「そうそう、大事なのはいい試合になるってことだよねー！」
　などと言い合ってはいるのですが、内心では「…ふっ、勝利はもらった」と考えているのはバレバレなのでして（笑）、もうすぐ始まるキックオフが待たれる日曜の夜。
　麒麟ももちろん、日本チームを応援しております。……ふっ。


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　さて、愛するマドモアゼル方。この連日の猛暑を超えた激暑をば、おいたわしくもいかに耐え忍んでおいででしょうか。
　……夏に必要なのは涼、涼といえば怪談、とこのように古の賢人も説いておられます。
　そこで本日はささやかながら、謹んでそっち方面のお話をさし上げたく存じまする。


　確か一年ほど前の雑記で、「我が母が幼い頃、ガマに乗ったフクスケを目撃した」という怪談…というよりも珍談をお届けしたのをご記憶でいらっしゃいましょうか。
　この話の舞台となったのは母方の祖母の実家＠関西の山里、わたくしめも幼い頃には時折遊びに行った場所なのですが、実はここ、隠れたフォークロアの宝庫らしいのでございます。

　小さいときに親戚たちから聞いたのを覚えているだけでも、
　「夜中、魚獲りの網を仕掛けようと河原に下りていったら、川下の方にとてつもなく大きな影だけの人間が立っていて、それがゆら〜ゆら〜とこっちに近づいてくるので、何もかも放り出して家に逃げ帰ってきた」
　ですとか、
　「法事で皆が集まった晩、向かいの山の上の方にぼうっと灯った幾つもの光が見えて、それが連なって山腹を横切っていく。『ああ、狐の嫁入りや』と言いながら皆で並んで見ていると、いつのまにかふっと消えてなくなった」
　ですとか、そうした不思議譚が結構あるのですが、それって何？！と言いたくなるような訳の分からない話にかけては、残念ながら我が母の右に出る者はおりません。

　母が幼い頃、やはり同じように祖母の実家に遊びに行っていた夏休みの夕暮れ。
　その座敷には北に面して縁側があり、池を挟んだ向こうは藪と裏山の斜面に続いています。幼い母が縁側で遊んでいると、裏山の方からほそーく笛の音が聞こえたと申します。
　何だろう？　と思っているうちにも笛の音は近づいてくる。ふと見ると、藪の手前に何やら人影が。驚く母の目に映ったのは……

　　　　　　　　　　　　　　　　マネの名画、「笛を吹く少年」であったそうな。



　「おそらくあれはタヌキの仕業であったに違いない」と、感慨深げに母は申します。
　人間の家に忍び込んだタヌキが、雑誌か教科書でかの名画を目にしたのであろうと。
　よっしゃ、これで一発人間を化かしてやろう！と思ったのであろうと。
　
　娘は思います。
　……んなわけあるか！ と。

　伝統的には日本の名画を選ぶもんじゃないのか？！　それともハイカラ好きのタヌキだったのか？！
　そもそも何故あなたはそういう妙ちくりんなブツしか見ないのだ？！


　「でもねえ、そういうものなのよ」と母は申します。「不思議なことって意外に身近にあって、いちいち説明できないものでしょう。だから、『ああ、そういうものなんだな』って納得して、別に考え込んだり追求したりしないで、日々の生活に戻っていくの。みんなそうだったよ」と。

　それを聞くと、そういうものがごく当たり前に身近にあった暮らし、というものが何だかうらやましくも感じられ、そういうことって今でもどこかであるのかなあ、だとしたらいつか出くわすことができたらいいのになあ…と思ったりもするのです。
　二人の祖父の顔を知らず、祖母たちもごく早いうちに亡くし、その後いろいろとあって母がそちらの一族との関わりを断った今となっては、くだんの山里に遊びにいく機会も失われ、ああ、だったらもっと不思議な話をたくさん聞いておけばよかったな、と幼い夏の日のことが懐かしく思い出されます。


　涼というよりは珍、となってしまった不思議話ですが、幼い頃の懐かしい記憶を添えたうちわのひと風ほどの涼として、お受け取り頂ければ幸いです。
　心から愛するマドモアゼル方。三連休の残る一日も、どうか楽しくお過ごし下さいますように。
　ＸＸＸ。

　

　 「何だかいつも薄着っていうイメージがあるんだよね」と友人に看破された通り、元来限りなく裸族に近い生活を送っているのですが、蒸し暑さが一気に増した６月中旬以来、ほぼ毎日ノースリーブのお世話になっております。
　このおそるべき湿気の中では、服の面積は少なければ少ないほどよろしい。
　問題は、「今からこんなことじゃ、夏本番の８月になったら何を着ればいいんだろう？」ということです。
　
　……いっそのこと、「何も着ないで出かける」という選択肢もあるにはあるのですが、悲しいかな、文明社会においては「台輔の足首丸出し事件」と同じくらいに破廉恥な事態となることが懸念され、せめて扇風機の強風を浴びてみんとする金曜の夜でございます。


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　ご機嫌麗しゅう、蓬莱津々浦々にお住まいの芥瑚なマドモアゼル方！
　本日はまず、『百年譜』の第六章のお届けを。
　常世版「世界の車窓から」もようやくここまで辿りついた今章は、昨年夏の『蓬莱芥瑚生息調査』で「該当項目の人物」（分かるかな）に票＆コメントをお寄せ下さった方々にも、ささやかな返礼になっていれば…と願いつつお届けいたします。
　週末のひとときの涼代わりに、どうぞお楽しみ頂けますように…。

　しかしながら、愛するマドモアゼル方。
　「百」という文字にふと立ち止まって考えてみれば、これまでに書いた作品数を合計すると、長短・書き下ろしを合わせてほぼ１００話、という勘定になります。
　……何と申しますか、もうセルフハリセンを下す気にもならないといった数字なのですが、それより何より……

　愛するマドモアゼル方。
　こんなところに至るまでお付き合い下さって、本当にありがとう（照）。


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　【熊本での小話】
　先だって熊本を旅行した際、暑かったので着替えを買おうと思っていたところ、ちょうど通りすがりの店頭にＴシャツを発見。「うむ、粋なデザインである」と速攻で購入して店から出てきたところ、「…それ、ほんとに着るの？」と唖然と呟く友人たち。
　何を仰る皆の衆！　このデザインをとくとご覧あれ！

　……黒地の背面には「取り敢えずビールで」、前面には「アル中」の白抜き文字。
　こんなに素敵なＴシャツもそうそうないと思うのですが。

　ちなみに翌日はこのＴシャツを着て、意気揚々と熊本城を見学しました。文句なしに今回の熊本土産Ｎｏ．１です。

　

　【前回のクエスチョン】
　黒川温泉と阿蘇山があり、いきなり団子と馬刺しと辛子れんこんが名物で、３つのヒントだけでどんぴしゃりの回答をお寄せ下さった（！）芥瑚もいらした、九州のとある県とは……

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　正解：　熊本県。


　熊本在住の友人に逢いに、生まれて初めての九州に行って参りました。各地から集まった友人も含めて、総勢６名。考えてみれば、今まで旅行といえば野宿あり放浪ありの辺境紀行（笑）、こうして大勢の友人たちと和気藹々とした小旅行を楽しむ、というのがどんなに新鮮な喜びだったか、ご想像頂けましょうか。

　典雅な日本庭園を持つ水前寺公園を散策しながら、池に面した小亭で抹茶とお菓子を頂いたり、（お茶席のお菓子はお茶を頂く前に食べるのだということを、初めて友人から教わりました。そうだったのか！）、だご汁や高菜飯、馬刺し納豆や太平燕や一文字のぐるぐる（これが正式名称）といった郷土料理の数々には、あまりのおいしさに心中で熊本移住を検討してみたり（笑）。

　恥ずかしながら、日本の文化や歴史にはまだまだ知らないことが多く、こうして初めての場所を旅行するとき、「この外国人め（笑）」と言いながら案内してくれたり説明してくれたりする友人たちの存在は、本当にありがたいと感じます。
　「ここはいいよ」と連れて行ってもらった熊本城は、その規模といい設計思想といい、まさに圧巻でした。
　ここまでするか！とのけぞるほどの面積を持つ幾重もの石垣、城内には大小１２０個もの井戸。天守閣はなんと二つ。日本三大名城と讃えられるこの城を作ったのは、勇猛な武将・加藤清正であったとか。
　小雨降る城内をそぞろ歩きつつ、しみじみ感じたのは、ジェネラル・カトーとは極めて優れた築城家であり、かつ何らかのフェチであったということです。


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　初めての熊本で何より印象深かったのは、まず緑の色が違うことです。
　独特の猛々しさを含んだ生気の濃さ、 と言ったらいいのでしょうか。その色を生み出している山々の多くは、今もなお活動し続けている活火山だと聞くと、深く納得するものがありました。
　さらに心を惹かれたのは、霧が多いこと。熊本城の天守閣から見渡す山々の上に、黒川温泉に向かう峠道で、深く立ち込める霧の風景に何度目を奪われたことか。
　そうして撮った一枚が、今サイトの正面玄関を飾っているモノクロの風景です。

　愛するマドモアゼル方。どうかこの写真をクリックなさり、全景の中へとお入り下さいませ。
　火と霧の国。初めて訪れた熊本の、これが個人的な心象風景です。


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　九州には通販でご縁を頂いている芥瑚方も多くおいでになり、ふとした瞬間にも東西南北を見やっては、心の中で大きく手を振っておりました。……九州にお住まいの女怪方、お元気でいらっしゃいますか？　
　貴女の麒麟はつい先日、すぐお傍まで参っておりましたー！（笑）

　先日の３つのヒントの中にも含まれていて、熊本旅行で心に残ったことがもうひとつあるのですが、それはまた日を改めてお話しするとして……

　愛するマドモアゼル方。今週末は連載中の『百年譜』、第六章をお届けいたします。
　以前企画を通して頂いたコメントの中に複数あったリクエストに、わずかながらお答えできているといいなと思いつつ、また今週末金曜日に元気よくお目にかかりますねー♪

　

　「サバティカル・イヤー」 (Sabbatical Year) という言葉がございます。
　古代ユダヤ人が７年ごとに畑を休耕させたという“安息の年”の慣習が転じて、
　　「研究や旅行のために、７年ごとに与えられる１年間の休暇」
　を意味するこの言葉。
　しかるに前回の雑記をお届けしたときの、あの言うに言われぬ疲労は何であったのかと振り返るとき、麒麟はしみじみ思うのでございます。
　これは７年目の煩悩シアターが求めた、ちっちゃなサバティカル・イヤーであったのだと。


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　長い間の小さな傷や棘が、そのときには些細なことだと流したつもりでも、思いがけないところで蓄積してしまっていたのかも知れません。休暇届の後、あまりの疲労感に自分でびっくりしてしまい、
　「まさか……煩悩ライフが尽きてしまったのか？！」
　とお休みの間にも自問をくり返し、さまざまな物思いの中、正直なところ諦めかけてもいたのですが……

　嗚呼。煩悩とは何というツンデレなのでありましょうか。
　「放置プレイの真髄は、解放したはずの相手を再び跪かせ、もう一度縛って欲しいと自ら懇願させること」
　とその道の先人が喝破する如く、一時は瀕死の床にあった煩悩が、昨夜辺りからにわかに頭をもたげてせっつき始めたのでございます。
　荒縄でも絹紐でもいいから、早いとこ縛り上げて虚海に戻してくれ、と。

　そっかー、んじゃ個人的には荒縄の方が好みだな！
　……という阿呆な寝言はさておき、心から掛け値なく愛するマドモアゼル方。


　　　　　　　貴女の麒麟は、本日より御前に立ち戻りましてございます。（伏礼）


　何より、「頂戴した愛に利息をつけてお返しする」というジゴロ最大の務めを、麒麟はいまだ果たし終えてはおりません。であるからには、煩悩抱えて復帰せずして何といたしましょうや。
　復帰に合わせて、通販も再開いたしました。ご所望の際には、どうぞお気軽にお知らせ下さいませ。

　お休みしている間にも、モニター越しに青鳥伝いに声をかけて下さった芥瑚方。
　ひとつひとつの言葉が心から嬉しく、それがなければこんな風には復帰できなかったと真剣に思います。本当にありがとう。大好きです。
　そして、こちらをご覧になっておいでのマドモアゼル方。
　おそらく思っていらっしゃる以上に、頂く青鳥は大きな喜びと原動力になります。同じくお気軽に話しかけて頂ければ、とっても幸せです（照）。


　　　　　　　　　　　　　　　　　◇　　　　　　　　　　　　　　◇　　　　　　　　　　　　　　◇


　……と、回復中の煩悩シアターから一足早く、昨夜のうちにお届けした正面玄関の新しい風景。
　こちらは今回の休暇中、初めて訪れたとある場所なのですが……

　　　ヒント１：　入浴剤「日本の名湯シリーズ」にも入っているほど有名な温泉がある県。
　　　ヒント１：　敬愛するラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が一時期を過ごした家のある県。
　　　ヒント３：　霧が多く火山もあり、おまけに美しい石垣を持つお城が残っている県。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その正解は次号に。

　なーんて申し上げつつ（笑）、さっくり答えをお届けすべく、一両日中には舞い戻ってくる予定です。せっかく元気になって戻ってきたんだもの、これだけじゃもったいない！（笑）

　それでは、愛するマドモアゼル方、今週末に再びお目にかかりまする！
　どうぞ良い休日をー♪＠ＸＸＸ