イタリアが６０年ぶりにワールドカップ不選出という衝撃（なんたるていたらく！）も覚めやらぬ昨今、突然ではございますが、ここで懺悔のお時間です。

　いえ、実は以前から気になっていたのです。本の後書きなどで、
　「いやー、なかなか書く機会がなくてこれはもうお蔵入りかと思っていたのですが、今回書けてよかったです。てへ（照）」
　などと記すこと片手の指では足りず、にもかかわらず結局書いている以上、これはいわゆるお蔵入り詐欺というやつではないか。ここでおひとつ、本当にお蔵入りが濃厚なブツが舞台裏にあるという事実を明かした上で、身の潔白を証立てるべきではないのか。

　その「お蔵入り濃厚なブツ」をご紹介させていただきますならば……

　予王舒覚が主役の、二つの連作長編なのです。タイトルは『洪水の前』、そして『予言の鳥』。
　前者は予青中期に起こった南部紀州の大洪水と瓦解に向かう王朝、後者は舒覚が女性追放令を発布して景麒に手をつける（！）に至るまでの舞台裏を扱うものなのですが、そしてもう映像を文章化したものを章割りまで済ませて寝かせてあるのですが、何故かそこから先に進まない。結構な細部まで書き留めてあるというのに、何故かこう……ノリが悪い。
　なんでかなあ！　舒覚は客観的に見ても興味深い人物だし、主観的にも気を惹かれるし、めんどくさそうなところがむしろ可愛い気もするし、深窓の令嬢ジュリエットが血の伯爵夫人エリザベート・バートリに変身するみたいで楽しそうじゃん？　なんで書かないの？？
　と自分で自分に首をひねっているのですが、進まない理由がさっぱり分かりません。これではまるで、「あー彼女？興味はあるけど付き合うのはちょっとねー」とか言い出すダメ人間のようではないか！！
　あとは理由の一部として、必然的に坂道を悪い方に転がり落ちていくような暗い内容となってしまうがゆえに、「これ…読んで下さる方ははたして楽しいのか…？？」という懸念が払拭し切れない、というのもあるのですね。だめだめ、それじゃ責任転嫁になっちゃう！
　とですね、ぽかすか頭を叩きつつ、「本当にお蔵入りする可能性の高いブツはちゃんと実在しております」という証明として恥を忍び、以上の舞台裏をお届けする次第です。超伏礼。


　そしてお聞き下さい、心から愛するマドモアゼル方。
　放浪から帰山した後の雑記で、「このもやもやは言語環境からくるストレスのようなものだとやっと分かった」と記したのですが、わたくしめ、自力で解決策を編み出しました。この閉塞感を取っ払うために、ロシア語の勉強を始めましてございます。

　昨年の放浪はウズベキスタン、今年はジョージアとアルメニア。思い返せばどれも旧ソ連邦の領土内で、ロシア語を耳にすることも、ロシア語で話しかけられることも多かったのですね。ごく簡単な単語や挨拶くらいならどうにかなる、という程度でも、異国の旅行者が自分たちに分かる言葉を話すと分かったときのすごく温かい笑顔（しばしばハグつき）がとても印象に残っていて、言語ということについてつらつら考えていたとき、ふっとそれを思い出してひらめいたのです。
　ならばまったく新しい言語を勉強し始めればよいのでは？　おお、そういえばロシア語があったよ！！

　スラブ系の言語を学ぶのは初めてなので、そもそもキリル文字からして目新しい。頭の中にある既存言語のルールとはまるで違う読み方だったり、その根底にある思考回路のありようだったり、なんだかすごく新鮮です。こういうのは久しぶり！
　旧ソ連邦の領土は広いから、少しだけでも話せるようになったら放浪の範囲が広がるなー、プーシキンの詩とか、部分的な意味だけでも拾えるようになるかなー、などと妄想しつつ、来年のワールドカップはロシア開催なので、タイミング的にもばっちりです。
　毒を以って毒を制す。言語のストレスは言語で解消。
　……ふっ。我ながらとんでもなく冴えておる。
　
　と、相も変わらずよく分からない方向へ勢いよく舵を切るのが得意な煩悩麒麟より、身の潔白を証立てたすがすがしさとともに、心を込めて週末夜のご挨拶を申し上げる次第でございます。
　それでは愛するマドモアゼル方、ドーブライ・ノーチ、おやすみなさい。

　

　前回の雑記で飯テロを敢行したところ、憤激した友人からお便りが届きました。
　「なんですかあのけしからんヴィジュアルは！　悔しいので飯テロ返しです。解禁したよー♪」

冬の味覚の王者、越前ガニ。

　えげつないことやりよる……！！！
　と悶絶しつつ、心優しい友人に真心をもって伝えたい。
　「世の中にはクール宅急便という素晴らしいシステムがあるので、現物を送ってくれても全然構わないんだよ」と。


　そして、本日は再び新しい風景を。
　ここ数年の放浪では、明確に国境を越えるということが久しくなかったのですが（ヨーロッパではＥＵがあるのでフリーパスで行き来できてしまう）、今回のコーカサスは国と国が厳然と分かれて国境線を引き合い、そのなかに自治共和国だの自治区だのが混在する複雑なエリア。国境線すれすれの場所に出かけたり、そこで銃を持った警備の兵士の姿を見かけたりすると、ああ、ここはそういうところなんだな…と肌で実感したものです。
　この日はジョージアの首都ティビリシから南東へ、カヘティ地方にあるダヴィド・ガレジ修道院を訪ねました。ジョージアは、キリスト教を国教と定めた世界で二番目に古い国。（一番古いのはお隣のアルメニアですね）　５世紀、荒地と岩山しかない過酷な環境のガレジ山麓に、岩肌をくりぬいて修道院が作られ、今も実際に修道士たちが生活しています。
　数キロどころか、手を伸ばせばもうそこがアゼルバイジャンという場所にあって、この修道院の敷地の一部は現在も両国間の国境画定の争点となっているため、ここでもやはり警備兵の姿があちこちに見受けられました。

　思い返せば小さな頃から世界地図を見るのが大好きで、多分１０歳にもならない頃に買ってもらった世界地図の本を今でも大事に取ってあるのですが、その頃はまだ東西冷戦が現実のものとして生きていて、地図の中ではジョージアもアルメニアもソ連邦の中に塗り込められています。
　あの小さかった頃には、実際にその場所を訪れる日が来るなんて思ってなかったんだろうなあ…　あれ？　でも暗記するくらい熱心に眺めてなかったっけ？　そうだった！　あの頃から虎視眈々と「将来行く国リスト」とか作ってルートの検討をしてたよそういえば！！

　と、思い出して噴き出しそうになった帰りのバスの中、ふと見ると窓の外には文字通り燃え上がるような夕焼けが広がっていました。一瞬、息が止まるかと思うほど美しかったその風景を、皆さまにもささやかなおすそ分けとしてお受け取り頂きたく、日曜の夜にお届けする次第です。

　あ！　これまでにも申し上げているように、正面玄関の写真、お気に召したものがありましたらご自由にお持ち帰りくださいませ。ＰＣの壁紙や待ち受け画面などに使っていますよー♪　とイベントなどで実際に見せて下さる方もいらしたりして、そのたびにじんわりと感動しています。
　えへへ。ありがとうございます（照）。



＞お帰り青鳥を下さった陽子さま
　という次第でして、現物をお送りいただいても少しも構いませんとも！（笑）
　はい、無事に充電を済ませて戻って参りました。もう、今思い返しても、本当に充実の放浪だった…。あのね、あちらですごくおいしかったお菓子があって、正確な名前は分からないんだけど、カッテージチーズらしきものをチョコレートでコーティングした棒状のもので、甘さ控えめのアイスのようなチーズケーキのような、もうほんとに止まらなくなるほどのおいしさだった…！（←アルメニアで毎日探し出して食べていた）
　言語の問題は、今回初めて明確な輪郭をもって自覚したのですが、だいたいストレスというものは原因が特定できた時点で半分くらい霧散する（経験談）ので、ちょいちょいどうにかしながらやっていこうと思います。時々飛び出すルー大柴語に、懲りずにお付き合いいただければ…！（笑）
　そうしてつくづく思うのは、帰国してサイトを開設したあの頃、ほんとに心底日本語に夢中だったんだなあ…書く日本語の美しさに魅了されていたんだなあ…と。そして現在はと問われますと、相変わらず魅了されっぱなしの一方で、その難しさを実感しまくって、己の言語能力不足に日々頭を抱えている煩悩虚海ライフだったりいたします。日本語って美しくて難しい！

　

　どこの国に行っても真っ先に覚えるのは、「こんにちは」、「ありがとう」、そして「おいしい」の３つの現地の言葉。とりわけ最後のひとつは、何故か行く先々で食べ物を頂戴する幸運に恵まれるので、その感謝と感動を臨場感たっぷりに伝えるための必須ボキャブラリーです。（今回もピクニック中の方々に招き入れられてご相伴に預かったり、渓谷で出逢ったおじいさんに人生最高のリンゴをもらったりと盛りだくさんでした…食欲魔神でも憑いてるのかな…）
　そこで本日の飯テロは、前回に引き続きジョージアから。


　アルメニアもそうなのですが、ヨーロッパ・中東・ロシアの文化の合流地点に当たるコーカサス地方の料理は、いろいろな要素が混じり合っていて、何を食べても本当においしい。ジョージアでおやつによく食べていたのが、「ハチャプリ」と呼ばれるチーズ入りのパイです。

右上がチーズのハチャプリ。他にもひき肉や豆のペーストなど、中身もいろいろです。

　こんな風に気軽に街角で売られているので、ほぼ全種類を制覇したのですが、中でもハチャプリの中のハチャプリ、「キング・オブ・ハチャプリ」と敬服したのがこちらです。

ハチャプリ・アチャルリ。

　ご覧下さい、マドモアゼル方。この堂々たる威容、輝かしい色合い、そして存在感。
　外はカリカリ、中はふわふわのクラストの真ん中には、山ほどのチーズと卵黄とバターがこんもり乗せられています。うわあ…なんておいしそうなんだろう…いい匂い…！！！

さらにダメ押しでアップ。

　いただきまーす♪　とナイフを入れようとしたそのとき、お店のお姉さんがすかさず「お待ちなさい」。そしてぽかんとする当方に向かって、「ミックス！よーくミックスするのよ！」。
　ほうほうなるほど、ビビンパプみたいにってことなんだな…と納得して、真ん中のチーズをよく混ぜてソースのようにしたものを、あつあつのパンの部分にからめて食べてみましたらば……

　　　　　　　　　　　　　　　その場で昇天するほどおいしかった。


　今思い出しても、これを食べるためだけにでももう一度ジョージアに行きたいと思うほどのおいしさです。あの香ばしさ、濃厚な味わい。はー。写真ごしでお伝えできてるかな…それにしてもおいしかったなあ…！！！
　はたして皆さまの実際のお役に立つのかどうかはもう考えないことにして、今回も懲りずにトリビアをお届けしますと、このハチャプリ・アチャルリ、ちょっと塩気が強いので、コーヒーならラージサイズでお供にぴったりなこと、そして一番小さいサイズを頼んでも顔より大きかったので、最大のサイズとなるとどれほど大きいのか見当もつかないこと、でしょうか。

　１１月に入って空の色が冬のそれに変わってきた月初めの週末、皆さまのスムーズな週の始まりを記念いたしまして、日曜夜にお届けするささやかな飯テロでございました。
　超伏礼。


　【通販再開のお知らせ】
　出奔中に休止していた通販を、本日から再開いたしました。ご希望の方がいらっしゃいましたら、例によってお気軽にお申し込み青鳥をお送り下さいませ。