日頃から愛用している iTunes Store に、「アラート」という恐ろしい機能があります。
　「ねえ、あなたこういうの好きなんでしょ？でしょ？」とこちらの嗜好を熟知したラインナップをちらつかせては、 お勧めの曲をダウンロードさせようとするので、「ち、違う…そんなことない…！」と抗ってはみるものの、拒み切れる確率が異様に低いというこの悪魔の機能。
　先日も懲りずにお勧めリストをチェックしていたところ、とある曲を見つけて、思わず声を上げそうになりました。
　中国・新彊ウイグル地方では知らぬ者がないといわれるほど有名な歌手、刀郎（ダオラン）が歌う、「氷山上的雪蓮」というこの曲。天山北麓を放浪していたときに出逢い、一目惚れならぬ一聴き惚れした懐かしい曲です。

　以前にもお話ししたように、天山山脈の北側には広大で美しい草原地帯が広がっていて、見たいものも行きたいところも尽きないのですが、いかんせん、公共の交通機関がほぼ皆無です。なので、地元でタクシーを見つけて、行程と値段を交渉する必要があるのですね。
　こうして契約成立したのが、漢族の運転手・Ｘさん。腕は良いけど無愛想でとっつきにくく、まるで高倉健を３０歳若くしたような渋い強面なので、ひそかに「頑丘」と呼んでいたものです（笑）。
　当初は会話らしい会話もほとんどなく、こちらも車窓から見える天山の雄姿に夢中だったのですが、ふとカーステレオから美しい旋律が流れてくるのに気づきました。シンプルなギターの音色と、少ししゃがれた独特の歌声。思わず聞き惚れるほど印象的な曲です。
　「うわー、これすごくいい！　誰の曲ですか？」といきなり目を輝かせたこちらに、Ｘさんもぎょっとしたようでしたが、「刀郎だ。知らないのか」と一言。それからぶっきらぼうな口調で、もともと別の地域出身の刀郎が、ウイグルの伝統音楽をこよなく愛して自分の曲に取り入れていること、それによってウイグルの人々から広く愛される歌手になったこと。この曲もその一つで、天山の奥深くに咲く雪蓮という美しい花になぞらえて人の絆を謳っているのだということを、ぽつぽつと語ってくれました。
　Ｘさんと隔てなく話ができるようになったのは、このときからだったように思います。

　愛するマドモアゼル方。正面玄関に実ったリンゴの実をクリックして、朽ちてなおあざやかな青いタイルの廟をご覧下さいませ。
　カザフ国境にほど近いホルコスという小村にある、トゥグルク・ティムール廟。１４世紀チャガタイ・ハン国の宗主で、この地方でイスラム教に帰依した最初の君主の棺を納めた墓です。

　Ｘさんの車で連れて行ってもらったこの廟には、他に訪れる人の姿もなく、たわわに実ったリンゴの樹の向こうに青い彩釉タイルを纏った廟が建っていました。
　脇の小屋から出てきた番人のおじいさんは、Ｘさんと知り合いらしく、話し込む二人を置いて、しばらくゆっくりと廟を見て回りました。すでに晩秋の空は高く澄んでいて、かすかな鳥の声以外には何も聞こえず、リンゴの甘い香りが漂っていて、廟の中はひんやりと薄暗く静まり返っていました。
　小屋に戻ると、おじいさんがリンゴを山のようにくれたので、お返しに手持ちのマルボロ・メンソールをさし上げたところ、「俺が作ったタバコの方がうまい」と一言。頂いた一本を試してみると、とうもろこしのような甘さと、コーヒーのようなウイスキーのような香りがあって、確かにとても具合がよろしいのですが、これがまたものごっつきつい。
　口直しに頂いたスイカを食べ終えて、手を洗いに外に出てみると、廟の丸屋根の右上に、薄い薄い真昼の月が出ていたのを覚えています。

　Ｘさんともこれでお別れという最後の夜、夜行列車に乗ってウルムチに戻るために、駅まで送ってもらいました。本当にありがとうございました、どうかお元気で、とお礼を言おうとするこちらを遮って、Ｘさんが投げるようにしてよこしたのは、あの曲、「氷山上的雪蓮」が入った刀郎のＣＤでした。

　「それはどんな感じの曲なのかしら…」と思われたマドモアゼル方。
　もしiTunesをご利用でしたら、検索で簡単に視聴して頂けるかと存じます。（「氷」の字は、本当はにすいに山と書く簡字体）　もしご興味がおありでしたら是非。
　この曲を聴いて、あのときのことを思い出すたびに、人のたくさんいる場所に背を向けて、辺境へ辺境へと分け入っているつもりでも、結局最後に心に残るのは、そこで出会った人との関わりなのはどうしてなんだろう…といつも思います。
　

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　という感じにですね、本日の雑記をお届けしようとして、はたと手が止まりました。
　……この話、今回が初めてだよな？　すでにお話ししちゃったりしてないよな？？

　と申しますのも、たとえばリアルで芥瑚方とお会いしてお話している際などに、「え？あれ？そんなこと、いつお話したっけ？？」と素でびっくりすることが多々あるからなのでございます。

　ハリセンを承知で告白いたしますならば、もともとさほどにおしゃべりではない我が気性。身の回りの出来事を話題にしたり、考えていることを表に出したりすることもありませんし、ましてや放浪のように自身の核心に近い部分を言葉で語るなどということは、皆無といっても過言ではありません。
　なのにこちらの雑記では、自分でも気づかないうちにそういうことまでお話ししてしまっているらしく、それを芥瑚方が覚えていて話題になさる…という、この不意打ちにして悶絶の羞恥プレイ。
　愛を持って誰かに向かい合うとき、人の心は否応なく開かれ、偽りも隠し事もできなくなるという実例なのでしょうか。

　愛するマドモアゼル方。
　これを書いているたった今も、わたくしめ、心なしか顔が赤くなっております…（照）。
　

　「あなたにとって腕時計とはどんな存在？」と訊かれたら、何とお答えになりますか？
　実はこれ、心理テスト＠非常に眉唾で、腕時計はずばり「異性」（反転）の暗喩なのだとか。
　先日、知り合いがにやにやしながらこのちょこざいなクエスチョンを振ってきましたので、「デザインの素敵な拘束具」と即答して顰蹙を買い、ネタばらしされて「え？なんで異性限定？」と素で問い返してさらなる顰蹙を買いました。
　本日もご機嫌麗しゅう、愛するマドモアゼル方。
　緊縛嗜好でバリアフリーな麒麟より、金曜夜のご挨拶を申し上げます。（三つ指）

　というかなんというか、もう…！！！
　この雑記を綴りながら、「よかった…生きてるよ自分…」とようやく虚海を渡れた喜びをかみ締めております。怒涛の今月上旬を簡単にまとめてみますと、１）新しい仕事が予想外に大掛かりなものだったと判明、２）当然ながらものすごく忙しくなる、３）生まれて初めて痛みで意識を失くすという体験を経て何故か抜歯された、の三本立てとなりましょうか。
　しかしながら生きていればいろいろあるのが当たり前で、大事なのはこうして皆さまにご挨拶ができることなのだから、とりあえずギネスでも飲もう！　モニター越しに手を振りながら！！
　と三歩歩いてすべてを忘れる精神とともに、本日も阿呆満載でお送りしております。
　……てへ（照）。
　

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　昨日の夜の見事な満月を、皆さまもご覧になられましたか？　ものすごーく綺麗だった！！
　中華文化圏では中秋節として賑わう休暇の時期、因果な巡り会わせで出張を割り当てられてしまった香港のスタッフが月餅の箱を持ってきてくれましたので、思いがけず中秋のお祝いができました。
　糖分もカロリーも低いとはいえないずっしり系のお菓子ですから、毎年この時期になると、食べすぎには気をつけよう、贈答も度が過ぎないように気をつけよう、というお達しも出回るそうなのですが、まあまあ年に一度のことだし、やっぱりこれがないと気分が盛り上がらないしねー！と結局なし崩しになってしまうのだそうです。あはは、分かる（笑）。
　とても嬉しかったので、中でもひときわ大きな月餅をその場でさくっとラッピングして、蓬莱の名画師・日さまにお送りしました。５月の新刊に、本当に本当に愛らしい鈴を描いて下さったお礼です。
　折り返しの青鳥には、「中に入ってるの、杏かと思ったら卵黄だったんだね！」とびっくりマークが。
　うん、あれは満月を象っているんだよー。

　そうだ！　新刊発行と一緒に在庫がなくなってしまった「Book of Years�T」、こちらは来月辺りに再販を予定しております。お問い合わせも頂いていたのに、お待たせしてしまってごめんなさい。
　もうちょっとだけお待ち頂けると幸いです。カバー掛け、がんばるから…！


　大きな台風が過ぎて以来、朝夕の風も本当に秋らしくなって参りました。
　愛するマドモアゼル方。体調を崩しやすい季節ですから、どうかご自愛下さって、そして今週末も素敵な三連休をお過ごし下さいませ。また、この週末には頂いた青鳥へのお返事もＢＢＳ経由でお届けしますので、お心当たりの方々、お手すきのときにお受け取り頂けますように…。

　

　愛するマドモアゼル方。
　各地で豪雨や竜巻が相次ぎ、はたして夏は終わったのか秋が来たのか、なのにまだお天気がはっきりしないのは気のせいか、いやはっきりしないのは当方の頭の方なのか。
　どうやって過ごしたのかまるで記憶にないここ最近を過ぎ、泥のような眠りから目覚めてみましたら、いきなり東京がオリンピック開催都市に決定しておりました。
　……び、びっくりした……。

　そんなばたばたの中でも変わらずに嬉しいのは、お申し込み頂いた本の発送準備をするときです。（原作に動きがあったからかな、例年よりちょっと多いかも…。ありがとうございます（照））
　蓬莱各地、いろいろなところに送られていくはずの封筒を閉じながら、ニュースの画面を眺めつつ、この本の行き先に何も被害がないといいなあ、申し込み下さった方に元気に受け取って頂けるといいなあ…といつもどこかで考えているような気がします。
　夏の疲れもそろそろ出てくる頃でしょうか。本当に酷暑だった今年の夏、ことに西方面の皆さまには疲れもマックスだと思います。心身を休めて、どうかご自愛下さいませ。
　つい昨日まで絶不調だった身が申し上げても、いまいち説得力に欠けるのですけれども！（涙）

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　いつもコーヒー豆を買っているお店で、「ハロウィーン・ブレンド」という季節物が出始めました。
　おお、そうか！　ちょっと早いけど、もうそんな季節なのか！

　ハロウィーンといえば、かぼちゃのランタンや魔女や怪物などのちょっと不気味なあれこれに、オレンジや黒を多用した色使いが目を惹く舶来のお祭り。
　……実はわたくしめ、ハロウィーンのあのディスプレイが大好きなのです。

　まずですね、神さま系ではなく妖怪系のお祭りだというところが素敵です。
　１１月１日、聖人を称える万聖節の前日には、トワイライト・ゾーンの住人たちがここぞとばかりに姿を現すから気をつけようね！というのがハロウィーンの起源だそうでして、そこに土着信仰やら伝説やらが絡まって、もはやなんでもありのカオスになっているというこの素晴らしさ。お行儀の良い正統系の祝日よりもずっと、無条件でそそられるものがあります。
　そしてあのどぎついカラーリング！　黒だったり紫だったり、ちょっと不吉な明るさと暗さに彩られたディスプレイの中でも特に好きなのが、かぼちゃのランタンことジャック・オ・ランタンなのでして、あれが欲しいあまりに昨年はふらふらロフトに行き、７０センチもあるばかでかい３段重ねのランタンを前に、真剣に購入を検討した覚えがあります。

　ああ、なんて仄暗くていい感じのオレンジ色なんだろう。大体、暗闇の中のオレンジの光っていうのが好きなんだよなあ…。かえって闇が深くなる気がする。
　ぽっかりくり貫かれた目と口の、この不気味さがまたいい。三者三様の３段重ねで魅力も３倍。これから暗く寒くなっていく季節、玄関ドアを空けたとき、このランタンがぼわっと暗がりに浮かび上がってこちらを見ていたら、どんなにときめいて心が温まることだろう…！

　とうっかり手を伸ばしかけて、あやういところで正気に返りました。
　こんなにでかくてかさばるもの、しかも一年に一ヶ月弱しか使い道がないようなものを、うかうか買ってどうする。

　しかしながらハロウィーンは毎年やってくるものなのでして、となれば同じ葛藤もやってくる。
　今年もまたふらふらとロフトに吸い寄せられ、気がつけばランタンの前で魂を抜かれているような気がしてなりません。
　もしやもしや、ついに誘惑に負けてしまった暁には、謹んでサイト正面玄関にジャック・オ・ランタン＠３段重ねの実物風景をお届けいたしますので、「ついにやっちゃったのね、ぷっ！」とお笑い頂けますと幸いでございます。平伏。



ＰＳ：　
　身体の不調より新しい仕事の忙しさより、何にもまさって切実に問題なのは、「もしかしたら今年の秋は本当に放浪に行けないかも知れない」という、この恐ろしい現状だったりします。
　これがなくてはエネルギー補給源が絶たれることになり、冗談じゃなくて本当に、来年の新刊が発行できないこと確定なのでございます。

　……ほんとにまずいな……どうしよう……。（←かなり青ざめている）